木工事例調査R4夏 ようび
クリエーター科木工専攻では、各地のものづくりや地域材を活用する取り組みについて現地で学ぶ「木工事例調査」を行っています。今年の夏も兵庫、岡山方面まで足を延ばして様々な事例を見てきました。その1つ、岡山県の西粟倉村の「ようび」を学生のレポートでご紹介します。
木工事例調査の2日目に、緑豊かな岡山県西粟倉村にある「ようび」を見学しました。「やがて風景になるものづくり」をコンセプトとした「ようび」は、ヒノキを始めとした多様な樹種を用いた家具や暮らしの道具の制作だけでなく、個人宅からホテル、旅館、商業施設等の空間づくりも手掛けており、現代にあった木のある暮らしの総合プロデュースをしています。今回、デザイン部部長の熊谷さんにお話を伺いました。
5500本のスギ材を使った25000もの切り欠きによる木組みで作られた本社社屋と工房は、抜群の存在感を放ちつつも、西粟倉村の風景に馴染んでいました。耐力構造と意匠設計を兼ねているこれらの建物は、以前火災によって全焼した社屋をのべ600人のボランティアの力で再建したと伺い、「ようび」が大切にしている「縁・人と人のつながり」をまさに象徴しているもので感銘を受けました。更に、社員同士のコミュニケーションを大切にする風土、ホスピタリティのある職人像など内外に向けた風通しの良さを目指す姿に共感しました。
ショールームには、創業以来大切にしてきた地域材活用の想いを載せた様々な椅子・スツール、テーブルなどが多く展示されています。主な地域材であるヒノキで作られた椅子の重さは広葉樹のものと比べると半分程度とのことでしたが、実際に椅子を手に持ってその軽さを実感しました。家具一つひとつのデザインに設置場所などの背景やストーリーが織り込まれており、事例として紹介して頂いた椅子は、樹木の枝に積もる雪や雪が溶ける様をモチーフとしたもので、機能と繊細な美しさを兼ね備えたものでした。
「ようび」は建築デザインも手掛けています。家具を建築の一部ととらえ、トータルデザインすることで、「ここにしかない場所、そこにしかない風景」を演出する事が「ようび」らしさの一つになっています。今回の見学では熊谷さんの熱のこもった説明と実例を見せていただき、私たちにも、それがよくわかりました。
ショールームで説明をお聞きした後、工房も見学させていただきました。天井が高く、作業スペースもゆとりのある、また陽の光が行き届く広々とした空間で、働きやすさ・作業のしやすさを感じさせる空間でした。工房長の渡辺さんは、ものづくりへの情熱が溢れる方で、普段の仕事について作ることが楽しくて仕方がないという思いにあふれたご説明をしていただきました。作業する上で一番心掛けていることは安全面であり、加工がオートメーションで行えるコンパクトNCルーターや、刃に指が当たると自動的に刃がストップする昇降丸ノコ盤SawStopを導入されていました。
現在は企業向けの製品が多く、案件に合わせてデザインと樹種を変えるため、木材や部材の在庫を多く抱えないというお話が印象的でした。オンラインショップの定番商品でも受注生産という方式を採用しており、工房スペースの有効活用と在庫管理のしやすさにもつながる合理的な方法だと思いました。案件ごとにデザインなどが異なるため、同じものを作ることは無いという感覚で常に新しいものを求めているというお話もあり、このような姿勢が「ようび」の発展に繋がっているのだと感じました。
最後に我々木工専攻学生向けのメッセージとして、「プロとしては最初から技術を求められるが、技術はやり続ければ必ずできるようになる」と叱咤激励をいただきました。今後木に関わるどんなものであろうと胸を張って届けられるよう、努力の継続をしようと肝に命じます。
今回の訪問を通して、新たなものを求め続ける姿勢や人とのつながりを大事にする環境が、新たなアイデアを生み出す土壌を作り出し、クリエイティブで生産的なサイクルと成長を下支えしていると感じました。この学びを今後に活かしていきたいと思います。
文責:クリエーター科木工専攻(2年)井上真利、ヤップミンリー(1年)根上拓